2009 年現在の世界のノルディックウォーキングの動向
― International Nordic Walking Federation主催のConvention 2009の様子から―
竹田 正樹
A Trend for Nordic Walking in the World at 2009
―A report from the Convention 2009 of International Nordic Walking Federation―
Masaki Tekeda
出典URL:http://202.23.129.160/webopac/bdyview.do?bodyid=BD00014970&elmid=Body&lfname=043000020011.pdf
この拙ブログは個人記録ノートでもあり上記の公式サイトが、何らかの事由で開けなくなることを懸念し、おそれながら以下にコピーさせていただきます。
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Doshisha Journal of Health & Sports Science, 2, 90-94,(2010)
報 告
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2009 年現在の世界のノルディックウォーキングの動向
― International Nordic Walking Federation主催のConvention 2009の様子から―
竹田 正樹
A Trend for Nordic Walking in the World at 2009
―A report from the Convention 2009 of International Nordic Walking Federation―
Masaki Tekeda
Nordic walking has been known as a safe and effective exercise for health than the other aerobic exercises. This exercise has started about 10 years ago in Finland. The safety and effectiveness of this exercise has been widely accepted and it scarcely spread to the World and also in Japan. In the present time, there are nearly 100 scientific articles in the World. International Convention of Nordic Walking hosted by International Nordic Walking Federation(INWA) has been held in Nesselwang, Allgäu, Germany from 15th to 18th of October 2009. The author has participated in this Convention and gotten the informations about Nordic Walking trend. This is a second review
for the trend for Nordic Walking in the World and Japan as the following stand points of view; 1) a trend for Nordic Walking from 2007 to 2009 in the World, 2) suggestions from the content of convention, and 3) the subjects (problems) have to be resolved in the future for Nordic Walking popularization.
【Keywords】Nordic Walking, health, exercise
ノルディックウォーキング(Nordic Walking: NW) は他の有酸素運動と比較して安全で効果的な非常に優れた健康運動として認識されている.このスポーツはおよそ10 年前にフィンランドにおいて始まった.その安全性と効果は瞬く間に世界中に広がり,日本にも輸入された.現在,ノルディックウォーキングに関する学術論文は世界中でおよそ100 を超えるほどである.2009 年10 月15 日から18 日にかけて,ドイツのアルガウ,ネッセルワングにおいて国際ノルディックウォーキング連盟(International Nordic Walking Federation: INWA)主催のコンベンション2009 が開催された.筆者はこれに参加し,いくつかの情報収集が出来たので,その内容を報告することとする.INWA コンベンションにはこれで2 回目の参加で,報告も2 回目になるが,今回の報告においては,1)2007 年から2009 年にかけてのNW の世界の動向,2)コンベンションから示唆できること,3)NW の将来への問題と展望,の観点から述べることとする.
【キーワード】ノルディックウォーキング,健康,運動
Ⅰ.はじめに
2009 年10 月15 ~ 18 日にかけて,ドイツのミュンヘンから南へバスで2 時間ほど行ったところのドイツアルプスの麓,Allgäu のNesselwang という標高およそ800m の避暑地において国際ノルディックウォーキング協会(International Nordic Walking Federation:INWA) 主催のConvention2009 が行われた. このconvention はノルディックウォーキング(Nordic Walking: NW)に関する様々な情報交換を目的として毎年1 回開催されており,特にNW の指導者資格(マスターインストラクター以上が参加可能)を有するものが世界から一堂に会し,学術的および技術的情報交換をする場となっている.お互いNW に関する知識を高めあうこと,そして,今後の普及活動における方向性を見いだすことが目的となっている.筆者は2 年前の2007 年にこのconvention に参加したが,さらに2 年の間に確実な変化を感じたので,それらを中心に報告することとした.その中から,世界や日本の将来のNW の普及について考察してみたい.
Convention 参加者
Germany 13 名
United Kingdom 6 名
Japan 5 名
Finland 3 名
Netherland 3 名
Poland 3名
New Zealand 2 名
Latvia 2名
Italy 2名
Austria 1 名
South Africa 1 名
France 1名
Hungary 1 名
Portugal 1 名
の14 カ国44 名の参加者であった.以前に比べて新しいところでは,New Zealand やSouth Africa からの参加者があったことであり,そのような国々でもNWの普及が始まっていることがわかった.
Ⅱ.Convention 内容
1.Convention のプログラム
プログラムは以下の通りであった(表1).
2. NW の技術面に関する議論
Convention 2009 においては,従来行われてきた10step program が変更になった.その内容についてはINWA に著作権があるためここでの紹介は割愛するが,従来より行われてきた方法では学ぶ側,特に初心者に若干の混乱が生じることが,これまでの指導経験
から明らかになってきており,それらを解決するために,より基本に立ち返り,よりシンプル化したものに変更になったと考えて良い.
表1 Convention2009 of International Nordic Walking Federation の内容
October 15th 2009 – Thursday
11.30– 15.30 INWA Annual Meeting
16.00 Departure to Nesselwang from Achat Hotel
19.00 – 21.00 Opening of INWA convention 2009
October 16th 2009 - Friday
09.00 – 10.30 Gait analyzes (theory)– Dr Grzegorz Zurek
11.00 – 12.30 Principle of Medical Nordic Walking (theory) – Dr Rüdiger Carlberg & Marion van Schwamen
13.45 – 15.15 10 steps revised (practice) – Naohiro Takahashi & Tiina Arrankoski
15.15 – 16.15 Walking gait analyses (practice) –Marco Maas
17.00 – 18.30
Biomechanical and metabolic issues in Nordic Walking (theory) – Prof. Schameder– Univeristy of Karlsruhe
19.00 – 20.30 Biathlon & dinner
October 17th 2009 Saturday
09.00 – 10.30 Interactive workshop – scientific research how to interpret – Dr Raija Laukkanen
11.00 – 12.30 Nordic Brain Walking (theory) – Dr Siegfried Lehrl – University of Erlangen
13.30 – 14.30 Stretching exercises to improve mobility (practice) – Naohiro Takahashi
14.30 – 15.30 Mental Nordic Walking (practice) –Walter & Tony Goth
16.00 – 16.30 Interactive workshop by Exel – NW materials (theory)– Exel– Stefan Huber
16.30 – 17.00 Tube training, a new concept – Gymstick – Risto Kasurinen
17.00 – 18.30 Facilitated discussion groups followed by Q & A panel session
20.00 Bavarian evening
また,新たな10 step program に基づいて,その技術と指導方法の確認が,実践しながら行われた.この実技講習に関しては,90 分にわたって確認しあった.
また新たに考案されたNW ポールを利用したストレッチ運動とGymstick(会社名)が考案したNW ポールとゴムチューブを利用した筋力トレーニング運動についての紹介があった.このGymstick による筋力トレーニングは大変面白く,やってみる前までは簡単にできそうな印象を持っていたが,意外にもゴムの強度が強く(5 種類の強さのゴムがある),そのゴムを利用した筋力トレーニングは身体の内部の筋力トレーニングに大変役立つことがわかった.このような筋力トレーニングは一般的な筋力トレーニングマシンやバーベル・ダンベルの類では出来ず,価値の高いものであることが判明した.例えば,ノルディックウォーキングを1 時間するのであれば,途中に10 分間のGymstick 運動を2 回ほど取り入れ,持久運動40 分と筋力運動20 分を行うというような方法によって,特に筋力の低下が懸念される高齢者に対しては大変有効なトレーニング方法になるものと確信する.もちろん,若い人にも有効性が高いことは間違いない.
3.ノルディックウォーキング研究に関する科学的側面
1)トピックス1
10 月16 日に講義1:Gait analyzes (theory)– Dr Grzegorz Zurek, 講義2:Principle of Medical Nordic Walking (theory) – Dr Rüdiger Carlberg & Marion van Schwamen, 講義3:iomechanical and metabolic issues in Nordic Walking (theory) – Prof. Schameder – Univeristy of Karlsruhe が行われた.これらのレクチャーは大変有意義なものであった.とりわけ,Dr.Prof. Schameder の講義においては,NW にまつわる膝関節への負担軽減の有無についての発表があり,バイオメカニクス的側面からエビデンスに基づいた発表がなされ,多くの知識を得ることが出来た.NW の発祥当初から,NW は2 本のポールを持って歩くこと
により,膝関節への負担が軽減すると考えられてきた.そのような研究報告もないことはなかった.しかし,研究が進むに連れて,関節への負担軽減は疑わしいとする論文が出され,議論が起きていた.そこにしっかりとメスを入れたのが今回の発表であった.結局,NW においては通常歩行に比べて膝関節への負担軽減はないということが明らかとなっている(図1:Kleindienst et al 2006;図2: Schwameder 2009)
2)トピックス2
筆者が大変素晴らしい取り組みと考えているのが,Dr. Rüdiger Carlberg & Marion van Schwamen が発表したPrinciple of Medical Nordic Walking である.メディカルノルディックウォーキングとは,様々な疾患に応じたNW のあり方を考えるというものである.
様々な疾患に対するNW の有効性が明らかになってきている.それは循環器系,代謝系,整形外科的疾患に留まらず,メンタル系の疾患などにまで及ぶ.どの疾患に対してもNW は有効であることが確認されている.しかし,健常な人と疾患者のNW のやり方が同じでよいはずはない.Dr. Rüdiger Carlberg & Marion van Schwamen は各疾患者に対応したNW の
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図1 通常歩行(W),ノルディックウォーキング(NW)
およびランニングにおける鉛直方向の床反力の比較.床反力から判断してもNW はWより負荷が減ることはない.NW の床反力はランニングに比べれば,はるかに小さい.(Schwamerder 2009 の資料より引用)
図2 通常歩行(W),ノルディックウォーキング初心者(NW-),ノルディックウォーキング熟練者(NW+)およびランニングにおける脛骨大腿骨間の圧縮力の比較.膝関節の圧縮力をみてもNW はWより負荷が減ることはない.(Schwamerder 2009 の資料より引用)
表2 Rüdiger Carlberg & Marion van Schwamen が提唱している各疾患者に対するノルディックウォーキング技術と注意点(Rüdiger Carlberg & Marion van Schwamen の資料を本筆者が翻訳)
1) 心疾患患者に対するNW の技術と注意点
・激しい動きは避けること
・湾曲しているような路面など緊張を強いられるような場所を避けること
・ポールを強く押さない
・出来るだけ平坦な場所で行う
・ゆっくり歩く
・心拍モニタ計を使用する
・時間をかけて歩き, 休憩時間もしっかり取る
2) 肩関節疾患者に対するNW の技術と注意点
・一般的な長さより短いポールを用いる
・歩行中の身体の回転運動は出来るだけ行わない
・ポールを地面に突くときにとりわけ注意を払う
・腕の前後の動きを極力抑え, 歩幅も短くする
・ポールに力を加えず, 軽く押す
・ ポールを大きく動かさず(振り回さず), 左右ポールを平行に動かすように注意を払う
・疾患部を十分にウォーミングアップさせてから開始する
・腕の動きだけを単独でトレーニングする
・ストレッチでは筋肉の過度な伸張は避ける
3) 股関節疾患者に対するNW の技術と注意点
・歩幅を短くする
・ 脚の骨(大腿骨など) を軸と仮定し, その軸の上に身体重心が来るように気をつける
・ 身体重心が軸の上にのらないような動きを避け, 正しい四肢軸を意識する
・歩行中の身体の回転運動は出来るだけ行わない
・下肢に加重をかけるような動きを行わない
・専門的な股関節運動をよく行う
4) 膝関節患者に対するNW の技術と注意点
・歩幅を短くする
・膝を常に曲げておき, 膝を伸ばさないように配慮する
・適切な関節の動きを確保するために, 足を着く位置に気をつける
・身体の回転がどのように行われているのかに注意して, その回転を調節する
・膝関節の損傷後はトレーニングを過度にやらない
・膝関節やその他の脚部の筋力を鍛える運動を平行して行う
5) NW の禁忌
・手術後すぐの急性期
・損傷後の急性期
・炎症が起こっているとき
・骨粗鬆症がかなり進んでいるとき
・何らかの激しい関節症を有しているとき
・脊髄損傷が起こっているとき
・脊柱側弯症がIII 度に達しているとき
・急性感染症
・熱があるとき
・急性心臓発作や脳卒中があるとき各疾患に対して適切なNW を処方するためには,その疾患を良く把握するとともに,どのようにテクニックを高めて行くかを計画することが重要である.多くは計画を変更させる必要が出てくる. 各種疾患に対する医学的に正確な記述は難しいが,上記のようにいくつかの妥当と考えられる一般的な原則はあり得る.
このような運動処方はメディカルノルディックウォーキングトレーナーの元で行われるべきである.
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やり方をまとめ,発表した(表2).また,NW を様々な疾患者にリハビリテーションとして行わせた結果,図3 のような結果を報告した.この結果から明らかなように,膝・腰痛などの整形外科的疾患,肥満・代謝系疾患,そして心疾患に対して,被検者の主観的な判断に基づく質問紙法によるものではあるが,NW が患者の身体活動を高めることに成功させ,腰痛の軽減や体重・体脂肪率の低下をもたらせ,いわゆる元気を取り戻させることに成功したことが明らかである.
Ⅲ.ノルディックウォーキングの普及状況
今回のINWA Convention で得た情報として,NWの普及状況に関する話があった.データはないものの,NW 人口は,ヨーロッパ各国内(特に西側)においては,ほぼ頭打ちになってきているのではないかということであった.この分析は,各国のNNWA(ナショナルノルディックウォーキング協会)の報告などから総合して判断したものと思われる.もっとも,ヨーロッパ各国内での普及率は目を見張るものがあり(例えばドイツでは人口の3%:250 万人の愛好者),一健康運動の普及状況としてはここまで高まっていれば,頭打ちになってもなんらおかしくはない(竹田,2008).しかし,アジア諸国,北米諸国,南米諸国,アフリカ諸国ではまだまだこれからであり,それらの国では人口が増えるだろうと予測できる.
Ⅳ.ノルディックウォーキングの普及における今後の展望
今回のコンベンションに参加して,そこから見えた今後の展望を述べるとすれば,より一層NW を普及させるためにはINWA という組織が柔軟に変わって行く必要があるように思われた.ノルディックウォーキングの普及に関しては,ポールとそれに付随する商品
の販売に関してマーケットが大変大きいために,公的立場であるはずの協会にメーカーの意向が入ってしまう.NW 用のポールメーカーは世界中にたくさんあるが,ある特定のメーカーだけがINWA に関係することは本来なら望ましくはない.現在はいくつかの特定の
メーカーがINWA を支えており,INWA としてもそれらのポールの使用を推奨している.ポールメーカーはINWA 設立に大きく貢献したことは大いに立派なことであるし,価値あるものと理解できるが,INWA は国
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図3 整形外科的疾患者(左上),脊髄損傷患者(左中),肥満およびメタボリックシンドロームの者(左下)および心臓疾患者(右上)における一定期間のノルディックウォーキングプログラム参加前後の不定愁訴の低減(質問指標による).
Evaluation study from MNW –courses 2005, 2006, 2007, 2008 with 400 participants and 400 questionnaires (Prof. Dr. Alexander Weber, University Paderborn 2002) at the beginning and at the ending of eahccourses with an assortment of 5 parameters in all courses and for obesity/metabolic syndrome ‐ and cardiovascular disease ‐ courses with 7 patrameters, additional blood count tests and weight analyse: (Rüdiger Carlberg & Marion van Schwamen 2009 の資料より引用)
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際協会という公的立場である.一健康運動であるはずのNW に,INWA 推奨というような形で特定のメーカーだけが優遇されて宣伝されるのはINWA の発展を損ねてしまう.ごく最近になり,INWA に関わるメーカーが増えてくることを少しは許容する傾向がINWA の中にでてきたが,まだまだであると感じた.今後,より一層NW を普及させ,INWA を発展させていこうと思ったら,INWAからは特定のメーカーははずれるべきである.むしろ,あらゆるポールメーカーにINWA の協賛になって貰うような形で関わってもらい,様々な関係者が協力してNW を支える体制が望ましいと思われる.
Ⅴ.まとめ
今回,INWA Convention2009 を振り返ってその様子を簡単にまとめたが,これまでのConvention と異なった大きな点は,今回は科学者が多数参加し,科学的側面からの講義を行い,それに基づいて活発なディスカッションが行われたことである.このあたりが研
究職にいる筆者としては,大変有意義なものであった.科学的側面を重視したINWA の取り組みは,NWの指導者に対して意義のあることである.それはNW指導者の科学的側面を重要視する視点が重要であるとともに,そのような科学的知識は指導者となるからに
は必須の知識であり,資質であるからである.
参考文献
Kleindienst F., Steif F., Wedel F., Campe S., Krabbe B.
Bestimmung der Gelek belastung der unteren Extremitaten
mittels inverser Dynamik beim Nordic Walking und walking.
Sportorthopedie-Sporttraumathologie. 2006; 22: 107-8.
Carlberg R and Schwamen M. Convention 2009 of International
Nordic Walking Federation の発表資料.2009.
Schwamerder H. Convention 2009 of International Nordic
Walking Federation の発表資料.2009.
竹田正樹.日本と世界のノルディックウォーキングの動向.
同志社保健体育,2008:46:89-103.
Doshisha Journal of Health & Sports Science, 2, 90-94,(2010)
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上記出典URL:http://202.23.129.160/webopac/bdyview.do?bodyid=BD00014970&elmid=Body&lfname=043000020011.pdf
<初回報告・参考URL>http://doors.doshisha.ac.jp/webopac/bdyview.do?bodyid=BD00011938&elmid=Body&lfname=027000460007.pdf