2011年4月4日月曜日

【社説】日本の震災で米国経済が得た教訓(The Wall Street Journal)

* 2011年 4月 4日 10:35 JST

 一昔前、米国のビジネスマンや政治家が日本製品の輸入に脅威を感じ、貿易障壁がまるで雨後の竹の子のごとく次々と現れたことを覚えているだろうか。それから時代は大きく変わったものだ。自由貿易が経済の繁栄に繋がるという証拠に、日本製品の輸入が米国の雇用を創出している事実が今明らかになっている。
日本からの部品調達が遅れ生産を一時停止したGMのルイジアナ工場

 3月11日、三陸沖で発生した地震が米国にもたらした余震を見て欲しい。地震と津波、そしてそれによって引き起こされた原発事故は、日本で大勢の犠牲者を出し、経済に大打撃を与えた。しかし震災の影響は日本だけに留まらず米国にも波及し、ありとあらゆる製造業が主要部品不足の事態に直面している。

 アップルのiPod(アイポッド)、iPhone(アイフォーン)、iPad(アイパッド)は、電池に使用される主要化学材料の工場が被災したため生産が滞る可能性がある。また、これらの製品で利益を出していた小売店やアップル本体の業績、さらには退職金口座や投資信託を通してアップルの株を保有している何千人もの米国民にまで影響が及ぶかもしれない。

 一方、米国のトヨタとホンダの販売店や、これらの車を輸送するトラック業者、主要部品を輸入している日系自動車メーカーの工場の従業員も、日本での生産停滞による影響がどう出てくるのか固唾(かたず)をのんで見守っている。

 米自動車メーカーも例外ではない。フォード、GM、クライスラーの全社が、自動車用半導体から車体塗料の一部色素に至るまで日本からの輸入に依存している。最悪の事態としては、部品の供給不足により生産の遅延や停止に追い込まれる。別の供給先を見つけられたとしても、費用増は避けられない。

 今後、震災の経済的影響が焦点になるにつれて、同様の問題が様々な業種で浮上してくるだろう。経営者たちは今のところ、一つ自然災害が起きるだけでサプライチェーンが影響を受けるようなことにならない仕組みの構築に頭を悩ませている。しかしそれ以外に、この問題には極めて重要な政策課題が潜んでいる。それは、米国経済にとって輸入がいかに大切かということだ。

 日本製品の脅威に怯えた過去もあるかもしれないが、実際には輸入品のおかげで米国は世界最大の経済大国としての地位を守ることが出来ている。オバマ政権の経済チームもその事実に気付いてくれることを願う。貿易反対派は貿易による米国の雇用喪失ばかりを指摘するが、貿易が突然遮断した場合の影響を論じることはあまりない。

 これはどの国からの輸入にも言えることである。韓国の輸入車に対する懸念は、米韓自由貿易協定批准の障害となっている。この政治的駆け引きにより、韓国へ輸出する米国企業に影響が出ているだけでなく、韓国製品の輸入に頼る米国企業も痛手を受けている。例えば、輸入車に対する25%の関税のために高額な国産ピックアップトラックを買わざるを得ない中小企業などもその良い例である。

 そしてさらに、中国という貿易反対派の格好のターゲットがある。オバマ大統領は「ルールの適用」―つまり中国製品に対する反ダンピング関税の強化 ―を貿易政策の要とした。今まで安いタイヤを購入していた米国民は中国の輸入タイヤに対する35%の関税の影響を受けたが、輸入障壁の経済的な打撃はその他にも様々な形で現れている。

 東日本大震災による影響を見れば、米国が世界にまたがるグローバルチェーンの恩恵を受けていることが明確であろう。経済成長と雇用創出において、輸入は輸出と同じくらい重要なのである。

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【社説】EUから日本に吹く「貿易風」(The Wall Street Journal)

* 2011年 3月 31日 16:35 JST

 欧州連合(EU)は先週の首脳会議で、日本との経済連携協定(EPA)交渉開始を検討することで合意した。実現すれば、今回の日本の三重苦に対して何より建設的な対応になるかもしれない。EUが打ち出した支援や日本の原発対応への無意味な批判よりも有望なことは確かだ。

 日本とEU双方の保護主義は、何年も前から貿易の足を引っ張っている。EUの統計によると、日本からの輸入額は2006~10年に平均で年間4.4%減り、日本への輸出額は同0.6%減少した。しかし、両者は互いに提供できるものが多い。欧州の調査機関コペンハーゲン・エコノミクスの09年11月のリポートによると、欧州でこれまでより安く簡単に日本車が入手できるようになり、日本で欧州の化学製品や穀物の入手が容易になれば、消費者は年間数百億ユーロ相当の追加的恩恵を受けることになる。

 EUは交渉が5月にも始まる可能性があるとみている。ただし、難航することは確実だ。EUが農産物関税や補助金を撤廃するのは容易ではない。一方、日本はコメに778%、バターに482%といった関税をかけて農家を保護している。日本のさまざまな規制障壁や政府調達市場での自動車など外国製品排除をみた欧州の自動車メーカーには既に、日本車に対する関税の撤廃を懸念する兆しがある。

 震災前は、菅直人首相はこうした保護策を縮小し始め、さらには環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加を実現する用意があるように見えた。しかし日本政府は今では、コメ生産の4分の1を担う地域が甚大な被害を受けたこともあり、考え直している。

 保護主義に閉じこもれば、自然災害からの復興を妨げる人災になるだろう。日本政府とEUが合意すれば、震災後の日本にとって、欧州が結集しうるすべての支援やアドバイスより有益かもしれない。

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