2011年1月24日月曜日

◆スポーツナビ・トピックス&コラム 元川悦子


出典URL:http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/2011/text/201101230003-spnavi.html

新世代の10番・香川真司、ライバル対決で真価が問われる (1/2)

2011年1月24日(月)
■偉大な先人たちの後継者として
グループリーグは不完全燃焼に終わったが、カタール戦で待望の初ゴール。プレッシャーからも解き放たれた【Getty Images】

「10番は日本代表でも特別な番号。自分らしさを出して、新しい10番になれればいい。やっぱり点を取るのが一番だと思う」

 昨年末の大阪合宿。ラモス瑠偉、名波浩、中村俊輔という偉大な先人たちが背負ってきたエースナンバー10を引き継いだ香川真司は神妙な面持ちで語った。

 この出来事だけでも注目を集めるのに、彼には今季ドイツでのずぬけた実績もある。昨年夏に移籍したドルトムントでは、すでに今季公式戦通算12ゴールをマーク。ブンデスリーガ前半戦MVPにも選出された。短期間で一気に欧州で名をはせた香川がカタールでどんな大仕事をやってのけるのか。かつて名波や中村俊輔がアジアカップMVPに選ばれ、優勝の原動力となったように、香川も日本をリードしてくれるのか。周囲の期待は日に日に高まっていった。

 ところが、彼にとってアジアの戦いは、想像以上に難しいものだった。

 初戦のヨルダン戦では、相手の引いた守りに苦しんだ。思うようにゴール前へ侵入できず、周囲との連係もいまいち。本田圭佑らとの距離も遠かった。唯一の決定機だった前半40分のGKとの1対1も外してしまう。後半はドルトムントと同じトップ下に移動。慣れた位置で本来の鋭さを少しは取り戻したものの、ゴールはこじ開けられず。いきなりアジアの洗礼を浴びた香川は「こういう大会はワンチャンスを決めなきゃいけないと痛感した」と自戒を込めて話した。

 続くシリア戦は、松井大輔、本田圭と並ぶ2列目でのポジションチェンジが流動的になり、攻撃も活性化された。長谷部誠の先制点に結び付く長い距離の走り、巧みなドリブルでDFをかわしたシュートなど、香川らしさの片りんものぞかせた。だが、全体的にパスを受けるのは足元に偏り、ボールをさらしすぎて相手のカウンターを招くことも少なくなかった。結局、後半途中に交代。その後の10人での苦しい戦いを外から見守る屈辱は耐え難いものだったはずだ。

 グループリーグ最終戦のサウジアラビア戦は相手の戦意喪失もあって、岡崎慎司と前田遼一が大量点を奪うことに成功した。香川も前の2試合よりハツラツさを取り戻したが、やはり肝心な場面で滑ったり、ボールを奪われたりと、どうもプレーに余裕が感じられない。
「ピッチが緩かったりして、なかなかボールが足につかなくて……。積極的にゴールを狙っているんですけど、なかなか難しい。個人としてやるべきことをもっとやらないといけない」
 大勝に沸くチームの中で、香川はただ1人、歯切れが悪かった。
■目に見えない重圧を背負って

「10番というのはそれほど重いものなのか……」。そう本人に尋ねると、「重たいとは思わないけど、主力としてこういう大会に出るのが初めてだから。自覚を持ってやりたいって気持ちは強いんで……」とプレッシャーを否定した。しかし、現地に訪れている元10番・名波浩は「目に見えない重圧ってのが、この番号にはあるからね」と心情を代弁していた。

 確かに香川が言う通り、彼は代表の主力として大舞台を戦った経験が少ない。年代別代表では、2006年AFCユース選手権(現AFCU-19選手権)、07年U-20ワールドカップ(W杯)に出場しているが、スーパーサブという位置付けにとどまった。08年北京五輪も2試合に先発したが、岡崎と併用される立場だった。10年ワールドカップ・南アフリカ大会でもサポートメンバー。ピッチに立つことはなかった。

「代表での位置は南アのころとはだいぶ変わりました。ブンデスで結果を残して自信もついたし、自分が引っ張る意識を持ってやらないといけないと思っています」と話すように、責任感が強すぎるあまり、グループリーグ3試合で空回りしてしまったのかもしれない。

 クラブと日本代表での役割の違いも、得点能力という最大の長所を出し切れなかった一因と言える。
 ドルトムントでの香川は4-2-3-1のトップ下。ルーカス・バリオスという大柄なFWが前線でしっかりとつぶれ役になって飛び出すスペースを作ってくれる。しかし日本の場合、1トップの前田はバリオスとタイプが違う。守備に人数を割いてくる相手も多いため、前線にボールが収まりにくく、2列目から前線に走り込むのは非常に難しい。加えて、香川の現ポジションは左サイドである。サウジ戦でトップ下・本田圭の代役に柏木陽介を起用したことからも、アルベルト・ザッケローニ監督はキレと俊敏性で勝負する香川をあくまでアウトサイドと位置付ける。となると、どうしてもゴールに向かうより、チャンスメークに回る仕事が増えるのだ。

 ザッケローニ監督は「香川にはゴールだけを望んでいるわけではない」と献身的な姿勢を高く評価するものの、本人が一番こだわっているのはゴールだ。複雑なジレンマを抱えながら3試合を戦った香川は、ノーゴールに終わった自分に納得し切れなかった。

 とはいえ、決勝トーナメント以降はガチンコ勝負。「取るべき人が取っていかないと優勝は簡単じゃない。真司のゴールに期待したい」と本田圭佑も期待を口にした。香川にゴールが生まれなければチームに勢いは生まれない。より大きなプレッシャーを背に、彼は準々決勝のカタール戦に挑んだ。


■劇的勝利へと導いた「強気の勝負心」
韓国戦は新10番の真価が問われる大一番。エースナンバーにふさわしい活躍を期待したい【Getty Images】

 この日の日本は入りが悪かった。今野泰幸が「前半は攻めていたけど、すごくバランスが悪いと感じた」と話すように、自分たちのリズムで戦っていなかった。早々と1点目を失い、嫌なムードが漂ったが、それを香川が跳ねのける。前半28分の最初の同点弾は彼自身が起点となり、20メートル以上の距離を走って岡崎のシュートを押し込んだもの。本人は「ごっつあんだった」と苦笑したが、待望の今大会初ゴールには変わりなかった。

 ここから香川は鋭さを増していく。43分には左サイドを駆け上がって強烈なシュートを放つなど、縦への意識が格段に上がった。これは岡崎に大いに影響を受けたのだろう。後半、吉田麻也が退場し、モンテシンのFKで再びリードされた後も攻撃的姿勢をより高めた。後半25分に本田圭佑の縦パスに岡崎とともに走り込んで左足で奪った2点目のシーンには、動き出しの素早さ、シュート精度の高さが色濃く出ていた。この1点は心が折れそうになっていた日本の選手たちに大きな希望を与えた。

 そして終了間際の伊野波雅彦の決勝点をおぜん立てしたのも香川。長谷部の強めの縦パスを受けると、DF2人とGKが寄せてきても逃げずにドリブル突破を試み、ゴールに向かった。伊野波が決めていなかったとしても、これはPK獲得に等しい。そんな「強気の勝負心」こそ、香川の真骨頂である。

「相手がボールウオッチャーになって前のめりだったんで、うまくかわせば決められると思った。自分の良さが出た」と、香川は安堵(あんど)感をにじませた。90分を通して見れば、相変わらずボールを失うミスが非常に多く、本人も「ゴール以外は全然」と不満いっぱいだったが、それでも求め続けて得点を挙げたという事実はやはり重い。

「ゴールすることでこれだけ気持ちが軽くなるのをあらためて実感した。やっぱり特別なものだと思いました」と、翌朝の練習時にしみじみと語っていた香川。エースナンバー10は、重圧や不完全燃焼をようやく乗り越えた。このまま輝きを発揮してくれれば、日本の攻撃にさらなる弾みがつくことは間違いない。

■宿敵・韓国との大一番は最高の試金石

 準決勝は永遠のライバル・韓国との対戦が決まった。韓国は香川と同じ21歳でトップ下のク・ジャチョルが目下4ゴールと大ブレーク中。「日韓新エース」の激突は大いに注目を集めるだろう。今大会限りでの代表引退が有力視されるパク・チソンは日本戦で国際Aマッチ100試合を迎える。10月の日韓戦では負傷欠場したため、香川はアジアナンバーワンMFと初めて同じピッチに立つことになる。

「韓国は今、若い選手が生き生きしている。でも、僕らも若い世代はいいと思っているんで、結果を残せるようにしたいです。パク・チソンはマンチェスター・ユナイテッドでやってるし、アジアで一番実績を残している選手。そういう選手と戦えるのはすごく楽しみですね」

 南アフリカでもアルゼンチンに真っ向勝負を挑んだ韓国は、これまでの相手のように自陣に引いて守るような戦い方はしない。攻撃的に来てくれることで、むしろ香川は自分の良さを出しやすくなる。「いろんな局面で1対1ができる状況が増えるかもしれない」と彼自身も強豪との対戦を歓迎する。

 左サイドでスタートし、機を見ながら中に入り込んでゴールを狙うという新たな仕事のツボを香川は見いだしつつある。ドルトムントでのスタイルに幅を加えた新世代の10番が、宿敵相手に確固たる結果を残せるのか。次の大一番は発展途上の香川にとって、最高の試金石となるだろう。

<了>



韓国自信アリ…日本はW杯時より弱い

 「アジア杯・準決勝、日本-韓国」(25日、アルガラファ競技場)
 ザッケローニ監督が23日、韓国を警戒した。韓国がイランを1‐0で下した準々決勝を視察した指揮官は「韓国はやはり実力があるチーム。プレーの内容も選手の質も良く、ピッチの配置もすばらしい」と称賛した。
 エースのMF朴智星(マンチェスターU)は「日本はいい選手が多い。準決勝での対戦ということで、いい勝負になる」と言えば、MF奇誠庸も「よくパスがつながるし、いいアタッカーがいる」と日本を評価した。
 もっとも、韓国代表関係者によれば「宿舎で日本の試合を見ていると、選手からは『南アW杯のときよりも弱いし、(0‐0で引き分けた)昨年10月(のソウルでの試合)よりも落ちている』という評判」との声も。日本に敬意を払いつつも、本心は自信ありのようだ。
 アジア王者はもちろん、05年8月以来、約5年半ぶりの韓国戦勝利へ、日本は負けられない戦いに挑む。

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